PIC32MM CPUシステム

令和元年 10月

   アナログ入出力

 前回までの検討でADとDAの共通部分の検討は概ね終わりました。次はデータ変換の要となるADコンバータとDAコンバータの選定を行います。
両者を同時に行うのは特に両者で測定レンジを揃えたいためです。

 この手のデバイスは海外メーカが圧倒的に強く、各社で個性的なデバイスを作っていたのですが、今世紀に入ってからデバイスメーカーの統合が進みました。
比較的有名どころを上げてみると、以下のようにTi社とAD社の二社に統合されています。
  ・ ナショナル・セミコンダクター社はTi社に統合
  ・ バーブラウン社はTi社に統合
  ・ リニアテクノロジー社はAD社に統合


 2. AD/DA変換デバイスの検討
 2.1 DAコンバータの選定

 DAコンバータの仕様を上記のTi社とAD社のHPから検索し、当初の目標仕様に合うようなデバイスを探します。
特に複数の入力レンジをサポートすること、可能であれば電流出力をサポートすることの2点を満足するデバイスは限られます。
  ・ AD社ではAD5412    https://www.analog.com/media/en/technical-documentation/data-sheets/AD5412_5422.pdf
  ・ Ti社ではDAC7760    http://www.ti.com/jp/lit/ds/symlink/dac7760.pdf

 両者は非常に良く似たデバイスです。ピン配置まで一致しており、両者の違いはHART機能の有無のみのようです。おそらく大元の設計は同じものでしょう。
このデバイスではデジタルの入出力としてCHあたり6本の信号線が必要です。絶縁電源としてはデジタル用5V, アナログ用±15Vが必要です。
取りあえずは、これを第一候補としてADコンバータの選定に移ります。


 2.2 ADコンバータの選定

 ADコンバータの選定の段階で一つだけ追加で考慮にいれたのは、ADコンバータにCHセレクタを付けるかどうかです。DAコンバータでは多くが1出力/デバイスです。
が、ADコンバータではCHセレクタで測定CH数を増やすのが一般的です。絶縁とのバランスもあるのですが、全てのCHを絶縁仕様とすると極端にCH数が減ってしまう。
現実的な妥協点として4CHのADコンバータまでを選択肢に入れ、4CH単位で絶縁する仕様までを受け入れます。
他には、測定レンジ4-20mA電流は250Ωの抵抗を介して0〜5V電圧に変換します。従って、測定レンジは±10V, 0〜5V, 0〜10Vの3つになります。
 DAコンバータの時と同様にメーカーのHPから該当しそうなデバイスを検索します。

 まず、最初に見つけたのがこちらです。
  ・ Ti(旧BB)社製 ADS8508 (ほぼ同一機能と思える製品としてADS7809, AD977A, LTC1609)
    http://www.ti.com/jp/lit/ds/symlink/ads8508.pdf

 複数の入力レンジを備え、欲しい機能は一通り揃っているようです。詳しくデータシートを読んでみると入力レンジを切り替えるにはADコンバータの複数ピンの配線を切り替える必要があります。これはデジタル信号部分で絶縁を行う場合の絶縁が必要な信号線数の増加を意味します。通信に必要な信号線の他に数本の信号線を追加することになります。これはそれなりに辛い選択です。状況によってはアナログ信号部分での絶縁を検討する必要も出てきます。また、この配線切り替え回路によるアナログ性能への影響も検討が必要でしょう。


 このため他の選択肢が無いか再度メーカーのHPを探します。次に見つけたのがこれです。
  ・ AD社製 AD7324    https://www.analog.com/media/en/technical-documentation/data-sheets/AD7324.pdf

 入力レンジの中に0〜5Vが無いのですが、このADコンバータは符号付のため実質13ビットの分解能です。このため、±5Vレンジで同等の機能を得られます。
デジタル信号の数は4本、絶縁電源はデジタル用5V, アナログ用に±15Vおよび5Vが必要です。5Vはアナログ用とデジタル用を同じ電源から取るようにします。
他の検討項目は特に問題ないようです。実際の使用では8CH仕様のAD7329の方が実装時の基板面積が少なくなります。これはAD7324では各CH毎に必要なプリアンプがAD7329ではCH切り替え後の一箇所のみで行えるためです。プリアンプ3個分少なくて済みます。図1のように通常はVINn側に入れるバッファアンプをデータセレクタの出力部MUXoutに入れることが出来ます。
 ただし、この部分にバッファアンプを入れる場合には、AD変換のCH切り替えを行った後はプリアンプの出力が新しいCHの電圧に追従して安定するまでの待ち時間が必要になります。
  ・ AD社製 AD7329    https://www.analog.com/media/en/technical-documentation/data-sheets/AD7329.pdf

   図1. AD7329にはマルチプレクサの出力MUXoutとADコンバータの入力ADCinが外部のピンとして出ている。
図1はAD社AD7329デバイスデータシート(AD7329_JP.pdf)より引用

 他にはこのようなデバイスも見つかります。
  ・ AD(旧LTC)社製 LTC1857  https://www.analog.com/media/jp/technical-documentation/data-sheets/j185789f.pdf

 このデバイスはAD7329とよく似た仕様になっています。ただし、ピン配置やパッケージが異なるので置き換えるという訳にはいきません。
AD7329との違いは絶縁電源が5Vのみです。厳密にはアナログ用、デジタル用、デジタル出力用と3つに分かれているのですが、同じ電圧ですのでフィルタを使って同じ電源から接続することも出来そうです。この方法は高分解能のAD変換には無理がありますが、分解能が12ビットであれば十分に可能性があります。

 これら3つのデバイスではADS8508が見劣りします。どうしても絶縁の必要なデジタル信号の数の多さが問題になります。
後の二つのデバイスでは、それ程の差異は無いように思います。ざっと見たところではPSRR(電源ノイズ除去率)ではAD7329が有利ですが、絶縁電源の数ではLTC1857の方が魅力的です。ただし、LTC1857は無条件に5V単一電源には出来ず、フィルタを追加するなどの追加処理が必要でしょう。

 以上からDAコンバータはDAC7760(またはAD5412)としますが、ADコンバータはAD7329かLTC1857のどちらにするかはもう少し時間をかけて検討します。
次は、DAコンバータの詳細設計を検討します。

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